今日も放課後、校門の前で待っていた。
今日も遅いんだろーな…。
壁にもたれかかって待っていた。
ポツポツ、小降りの雨。
傘…ないや。
まっ、たいした雨じゃないし…ね。
「空露羽?」
自分の名前を呼ばれたことにピクリと反応してしまう。
違う…
この呼び方をするのは諒汰じゃない。
呼び方だけで簡単に散ってしまう期待の花。
だけど
「蜜羽?!」
呼び方だけで簡単にパーッと明るい花が咲く。
嬉しくなって、勢いよく振り返る。
「諒汰…!」
と…
「楓くん…?」
あたしに近い方立っていたのは、楓くん。
楓 祐人*カエデ ユウリ
隣のクラスの子。
容姿抜群、運動も勉強もなんでもできる完璧王子様で有名。
あたしは、接点なんてなんにもないんだけど。
小中学校も別々だし、高校生活2年間ちょっと過ごして来たけど、同じクラスにはなったことないし、話したこともない。
「雨の中、何やってんだよ?!」
先に話し始めたのは諒汰だった。
そのことになんだか嬉しくなる。
「待ってたの」
「は?誰を?」
強い口調とは裏腹に、こっちに来て、あたしの上に傘をさしてくれる。
そんな仕草にキュンとくる。
「諒汰のこと…待ってたの」
「なんで?」
「……」
「まー、いいや。行くぞ」
この流れ、前と一緒。
前みたいに、聞けなくなんなきゃいいけど…。
ってゆーか、今の状態!
相合傘!!!
幼なじみだし、相合傘ぐらいしたことあったけど、この年齢にして相合傘!!
それはズルいよ…諒汰。
って、そんなこと考えてる場合じゃなーい!
言わなきゃ。
「…ねぇ」
「……」
無視?!
雨で聞こえない?
諒汰のセーターの裾をキュッと引っ張る。
「なに?」
上からあたしを見下ろす諒汰。
そのお兄ちゃんらしいとこ、ホント大好き!
だって、あたしだけのものだから。
「…なに?」
あっ、いけない!
つい、見とれちゃってた…!
「ちょっと…聞きたいことが…あるの」
「えっ?!なんてー?聞こえねぇ」
なぁーぬっ?!
せっかく意を決して言った言葉をーーー!
これ、諒汰じゃなかったら絶対許さん!!
「だぁーかぁーらぁー!」
「……ん?」
なんで、そんなかわいー顔すんの?!
優しい顔されちゃ…聞けない。
突き放されるのが怖い…
この優しい顔、見らんなくなっちゃうんでしょ…?
「どした?」
黙り込んだあたしに優しく話しかける諒汰。
ダメ!
この優しい流れに流されちゃ!
聞かなきゃ!聞くのー、空露羽!
「聞きたいことがあるのっ!」
「なに?」
なぁーーーっ!
サラーっと言うねー。
って、ここ戸惑うとこじゃないか…
「なんで…?」
「えっ?」
「なんで…避けるの…?」
「ごめん、聞こえねぇ…」
あれ?なんでだろ…
目から雫が零れるのは…
止めたくても止まらない…
はらはらと流れてく。
でも、雨の中だし諒汰気付いてないみたい。
よかっ…た。
「……」
「どした?なんかあっ…た?」
ちょっぴり戸惑った口調に、少し焦って涙を拭く。
それでも、溢れ出てしまうんだけど…
「なんで…なの?どうして諒汰は離れてっちゃうの…?」
「えっ、なん…て?って、えっ?!泣いてんの?!」
動揺する諒汰。
「ちょっ、とにかく来い!」
諒汰は反対の手に傘を持ち替えて、右手であたしの手をつかんだ。
諒汰に引っ張られて、ペットみたいに着いて行く。
あたしの家の前を通り過ぎて、諒汰家の前まで来た。
今は、涙で全く見えないけど…
「とにかく入れ。リビングには、母さんいると思うけど…。先俺の部屋行っといて。行ける?」
コクンと頷いて、諒汰部屋に向かう。
階段をとんとん上る。
諒汰ん家の階段だ…。
久しぶりに来たかも…諒汰の部屋。
高校生になってから、諒汰ん家にお邪魔することはあっても、遊ぶことってあんまなかったしね…。
あたしん家に諒汰が来ることは、よくあったけど…
あたしを送って来てくれた諒汰を、ママがいちいち呼び止めるから…
でも、それも嬉しかったり…
それより、涙…止めなきゃ。
諒汰が心配しちゃう。
でも、止めようと思えば思うほど止まらないもの。
そー、うまくはできてないんだね。
人間って…
ーーーガチャ
扉の開く音にびっくりして、思わず背を向ける。
「ほいよ」
あたしの座ってるすぐそこのテーブルに、コトッと音がなる。
「……ありがと…」
そこに置かれたのが、あたし専用のピンクのカップだってことはすぐにわかる。
なにも言わなくてもわかってくれる。
あたしが落ち着きたいときは、このカップに砂糖たっぷりの紅茶淹れて飲むこと。
これを知ってるのって諒汰ぐらいじゃないかな?
相変わらず背を向けたまま、カップに手を伸ばしスーッと紅茶を飲む。
甘くておいしい…。
諒汰ん家の紅茶の味。
やっぱ、諒汰いれば落ち着く。
諒汰ん家の紅茶も、諒汰部屋も…
嗚咽も止み、静かな空気。
「あのね…聞きたいことが…あるの」