【 距離 】





見ているだけで鬱になってしまいそうな激しい雨が、地面に降っては弾かれる。


「…せっかく、会えるとおもってたのになぁ…」


子供――夕太は寂しげに呟いた。


『うん…たのしみにしてたんだけどね…』


“約束のシロツメクサ”から、女の子の声が聞こえてきた。

夕太は“光っているシロツメクサの腕輪”を軽く撫でながら、ため息を一つ。


「…こえがきこえるだけ、良いのかな?」

『まえにあめだった日はこえもきこえなかったもんね』

「うん。きょねんここにかえってきたとき、はなせるようになってたのはビックリした!」

『あたしもビックリした!でも、うれしかったなぁ』


夕太は声の主――七歌の笑顔を思い浮かべた。


「ぼくもうれしかった。でも、やっぱり…会いたいな」


何故か、沈黙が訪れる。




『やっぱり…会いたいな』


七歌は哀しげに顔を歪めた。

そして手に持っていた“シロツメクサの冠”を胸に抱いた。

暫くの沈黙の末、七歌は言う。


「…あた、しも…会いたい…な…」


伏し目がちに呟いたその言葉は、酷く震えていた。


『…さびしいよ』

「…うん」


それぞれ閉じ込められた空間で、二人は過ごしていた。

その空間から出られるのは、年に一度の七夕の日だけ。

何故かはわからないし、知りたいとも思わない。

お互いが傍にいれば、二人はそれだけで良かった。

“約束のシロツメクサ”を媒介として、前まではできなかった会話をする二人の距離は、毎日確実に縮んでいたはずだった。

けれど、土砂降りの雨はそんな二人の距離を簡単に引き離した。









【 落胆 】




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