【 約束 】
「じゃぁ、こうかんだね!!」
「うん、こうかん‼」
シロツメクサのブレスレットを、七歌が夕太につけてあげた。
そして、二人は「おそろいだね‼」と無邪気に笑う。
「また、あおうね?やくそくのシロツメクサにしよ!!」
「うん‼また、あおうね‼」
無邪気に笑いあう二人。
そんな二人に、微かな光が差し込んだ。
時間は止まってはくれず、残酷な時が、二人に迫っていた。
「…あさに、なっちゃうね……」
「うん…からだがすけはじめたよ…」
体が宙に浮き、二人は反対の方向へ引っ張られて行く。
お互いに『離れたくない』、『せめてぎりぎりまで…』とそう想いながら、向かい合って両手を重ねる。
「またね…またね、ゆうたくん!!」
口を突いて出てきた言葉を、繰り返した。
「うん…またね、ななかちゃん!!」
決して、さよならとは言わないよ…。
言いたくないから…『さよなら』なんて、別れの言葉。
夜が明けて、朝が訪れた。
気が付けば、朝日の眩しさに溶け込んで、二人は消えていた。
二人はいったいなんだったのだろう。
そんな疑問が、解決することはあるのだろうか。
今わかることは、二人のいた草原の草が、何故か折れているということだけ。
そう、二人が座っていたはずの草原の一部の草が、折れていた。
その事実が、二人が確かにそこに存在していたのだと、証明していた。
【 目撃 】
「…な、なか?ゆうた、くっ…!?」
散歩をしていた一人の女性は、散歩の途中でいきなり走り出した。
自分の家を通り過ぎ、隣の一軒家のチャイムを押した。
「…どうしたの…七実(ナナミ)?こんな朝早くに…」
「夕奈(ユウナ)!!聞いて!!今、二人がいたのよ!!七歌と夕太君が!!見間違いなんかじゃないわ!!本当にいたのよ!!」
「…見間違いよ」
その瞳に一瞬影が宿ったが、すぐに何事もなかったかのように、そう言った。
「いたの!!本当よ!!」
必死にそう言う七実の腕は、夕奈の腕を掴んでいた。
そんな七実の腕を優しく自分の腕から離し、夕奈は頭を横に振った。
そして、やんわりと諭すように、七実に話しかけた。
「…二人は、四年前に…亡くなったのよ…」
込み上げてくる“なにか”を堪えるかのように、夕奈は自分の下唇を噛んだ。
「赤ん坊の頃に、車に轢かれてっ…」
「わかってるわ!!近くの草原の前で轢かれた!!でも、その草原にいたのよ!!」
七実の目には、薄らと水の膜が張っていた。
目を見開いた夕奈の前で、どうしようもないその感情を、吐き出すかのように。
「い、たのよ…ほんとに…いたのっ!!」
「…そうね、見間違いなんかじゃ…ないわね…」
言いながらしゃがみこんだ夕奈は、七実の肩を抱いた。
そんな夕奈の目にも、薄く膜が張っていた。
必死の訴えに、七実の言葉を信じたようだ。
「な、なかっ…ゆうたく…うぅ…」
夜が明けてすぐの朝、二人の女性の嗚咽が、辺りに小さく響いた。
【 後書き 】
テーマ「七夕」
オムニバス形式で行こうと決め、第二弾と第三弾の更新に入りました
しかしその前に…第一弾のこの作品の修正を忘れてはいけません
そして、ついに修正完了です
感想ノートにコメント頂けると、嬉しいです(*^^*)
星願(せいがん)シリーズ第一弾は、主に切なさとほのぼのさ(そしてこっそり友情)を中心に執筆していました
そんな第一弾、『七夕の星達』の完結を、ここにお知らせいたします
ここまで読んでくださったみなさまが、幸せな人生を歩めるよう…
to be continued…