【 星空 】





「…きれいだね…ななか(七歌)ちゃん」

「うん…あまのがわとか、とってもきれいだね…ゆうた(夕太)くん」


二人は瞳を輝かせ、無垢な笑顔を浮かべてそう言った。


「…ねぇ、たんざくにおねがいごとはかいた?」


ふと、夕太が七歌の顔を見ながら問いかけた。


「かいたよ!!でも、おしえないよ?おしえたら…ねがいごとがかなわなくなっちゃうもん…」

「…そうなんだ…じゃぁ、ぼくもおしえない!!」


草原の上に膝を抱えて座り、二人は手を繋ぎながら並んでいた。

二人でクスクス笑いあってしばらく経った頃…。


「あ、ながれぼしだ!!」

「ほんとうだ!!」


天の川を滑るように、流れ星がたくさん流れた。

その日は流星群が流れる日だった。




「そうだ‼こんどはながれぼしにおねがいしようよ!!」


七歌の提案で二人は手を繋いだまま、目を瞑ってお願い事をした。


「おわった?」

「おわったよ」

「ななかちゃんは、なんておねがいしたの?」

「ひみつ!!これもいったらかなわないんだよ!!」

「そっか…じゃぁ、じぶんだけのひみつだね‼」


星空を見ながら、二人はまた、クスクス笑いあった。


「ひこぼしさんと、おりひめさんは、あえたのかな?」

「あたしたちはあえたんだから、きっとあえてるよ!!」

「うん、そうだね…でも、またいちねんまつのかな…」

「よるがあけないでって、まいとしねがうよ…」

「え?」

「あっ」


願い事は…言ったら叶わない………。




急に表情が暗くなった七歌に、夕太が話しかけた。


「ぼくね、ななかちゃんのこと、すきだよ」

「…あたしも、ゆうたくんのこと、すきだよ」


どういう意味で、二人がお互いを好きと言ったのかは分からない。


「たとえかなわなくても、ぼくはななかちゃんのこと、ずっとわすれないから」

「…でも、いちねんまつのはさびしいよ…」

「…これ、あげる」


夕太は七歌の頭に何かを被せた。


「ここにあるシロツメクサであんだんだ!!はなかんむり、にあうよ‼」


七歌を待つ間、夕太がプレゼントしようと編んだ物だった。


「…じゃぁ、あたしはこれ!!くるとちゅうでシロツメクサみつけて、うでわあんでたの。そしたらおそくなっちゃって…」

七歌は眉を下げて笑った。









【 約束 】





「じゃぁ、こうかんだね!!」

「うん、こうかん‼」


シロツメクサのブレスレットを、七歌が夕太につけてあげた。

そして、二人は「おそろいだね‼」と無邪気に笑う。


「また、あおうね?やくそくのシロツメクサにしよ!!」

「うん‼また、あおうね‼」


無邪気に笑いあう二人。

そんな二人に、微かな光が差し込んだ。

時間は止まってはくれず、残酷な時が、二人に迫っていた。


「…あさに、なっちゃうね……」

「うん…からだがすけはじめたよ…」


体が宙に浮き、二人は反対の方向へ引っ張られて行く。

お互いに『離れたくない』、『せめてぎりぎりまで…』とそう想いながら、向かい合って両手を重ねる。




「またね…またね、ゆうたくん!!」


口を突いて出てきた言葉を、繰り返した。


「うん…またね、ななかちゃん!!」


決して、さよならとは言わないよ…。

言いたくないから…『さよなら』なんて、別れの言葉。




夜が明けて、朝が訪れた。



気が付けば、朝日の眩しさに溶け込んで、二人は消えていた。

二人はいったいなんだったのだろう。

そんな疑問が、解決することはあるのだろうか。

今わかることは、二人のいた草原の草が、何故か折れているということだけ。

そう、二人が座っていたはずの草原の一部の草が、折れていた。

その事実が、二人が確かにそこに存在していたのだと、証明していた。









【 目撃 】





「…な、なか?ゆうた、くっ…!?」


散歩をしていた一人の女性は、散歩の途中でいきなり走り出した。

自分の家を通り過ぎ、隣の一軒家のチャイムを押した。


「…どうしたの…七実(ナナミ)?こんな朝早くに…」

「夕奈(ユウナ)!!聞いて!!今、二人がいたのよ!!七歌と夕太君が!!見間違いなんかじゃないわ!!本当にいたのよ!!」

「…見間違いよ」


その瞳に一瞬影が宿ったが、すぐに何事もなかったかのように、そう言った。


「いたの!!本当よ!!」


必死にそう言う七実の腕は、夕奈の腕を掴んでいた。

そんな七実の腕を優しく自分の腕から離し、夕奈は頭を横に振った。

そして、やんわりと諭すように、七実に話しかけた。