長のずっと変わらない笑み見つめながら、ふと強制帰還される間際の魔法使いとの会話を思い出す。
『死神さん、急いでこの城から出た方がいいですよ。直に全てが凍ってしまう』
そう言っていた冷たい瞳を思い出す。魔法使い……まさか、あなたがその元凶だと言うの?
「どうやらわかったようですね」
私の様子から察したらしい長。
「あのまま死神たちを帰還させなければ、貴女達も巻き込まれてしまう所でした。その為の強制帰還です」
「本当にその…、あのエリストが下界を凍らせたんですか!?」
信じられない気持ちで長に問う。誰かにこの考えを否定して欲しかった。魔法使いが、下界にこんなことをするなんて、やっぱり考えられない。
「……………」
笑みを貼り付けたまま、目だけ更に細める長。
「あの者は、かつて魔法界を滅ぼした人物でもあります。まさか、下界まで滅ぼしてしまうことになるとは、思いもよらなかったですがね」
そう言って、長は部屋を出ていこうと歩み始めた。私は長のその言葉を理解しようと必死で、その場から動けなかった。
「ああ、そうです」
部屋から出る直前、思い出したかのように立ち止まった長は、私に振り返りながら、言った。
「その水盆を見るのは、貴女の自由です。…ですが、決して下界に戻ろうとは考えないことです」
そして長は、まるで何事もなかったかのように部屋を出ていった。