今もボールを持った山田からボールを奪い取っていた。

しかし、山田も黙っておらず、冬花の目の前に立ち、行く手をはばんだ。

山田のチームのやつも冬花に追い付き、彼女を取り囲んだ。

さすがの彼女もこの状況からは抜け出せないらしい。
彼女のチームの他の奴らは、彼女を助ける素振りもなく、あきらめ顔でただ遠くから見つめているだけ。

冬花もそんなことはわかっていたようで、一度も後ろを見ようとしない。

「こりゃ、ダメだな…」

五島が横でつぶやく。

確かに五島の言うとおりだと思ったが、予想を裏切るように冬花は人にもみくちゃにされながらもボールを投げた。

「冬花ちゃん、やけになったな」

誰もがそう思っただろう。
冬花がボールを投げた場所はコートの中心辺り。

無謀と思われたボールは高く上がり、ゆるやかに弧を描き、ゴールリングの上でバウンドした。

みんなの動きが止まった。

全員が息を飲み、ボールを見つめる。

本当にボールがスローモーショーンのように見えた。

跳ね上がったボールがゆっくり、ゆっくりとゴールリングの内側に入っていく。

静まり返った体育館内にボールがバウンドする音が響いた。