「ごめんね~、桃子お待たせ」


会話がひとしきり終わったらしい沙織は、私を見て申し訳なさそうに言ったが、私はそれが耳に入っていなかった。


「……桃子?」


再び、沙織がキョトンとした顔で、私の名前を呼んでようやくわれに返った。


「あ……あぁ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」



「そっか」


沙織は私の様子を特に気に留めるわけでもなく、また廊下を歩き出した。


背後では、土橋修のグループがふざけ合って笑う声が響く。


そのバカ騒ぎっぷりが気になって私はチラッと後ろを振り返った。


土橋修は、きっと私には見せることがないであろう、笑い顔を友達に向けていた。


その顔を見ると、先ほど土橋修が沙織に見せた表情や、仲のよさそうな会話が自然と思い浮かんでくる。


楽しそうに大きく口を開けて笑う土橋修を見ていると、どんな顔して郁美を振ったのか、と急に苛立ち始めて私はギリッと奥歯を噛み締めた。