体育館に向かうため、沙織とおしゃべりしながら廊下を歩いていると、すぐ先に土橋修のいる集団が通路を塞いでいるのが見えた。


何が楽しいんだか、やたらと大きな声で笑いあっている。
七、八人程の男子が集まっている光景は妙な威圧感があり、横を通り抜けるときは少し怯んでしまう。


私はその集団と目が合わないよう、下を向いて肩をすぼめて、彼らの脇を通り抜けた、その時だった。



「おい」


低い声が私の背中に向けられた。


足を止め、おそるおそる振り返ると、土橋修が無愛想な顔をこちらに向けていた。


とっさの出来事に私はどうしていいのかわからず、体操着の入ったバッグを持つ手にやけに力が入った。


何か言った方がいいのか、下を向いて考え込んでいると、
土橋修はゆっくり近づいてきて、


「沙織、早くCD返せよ」


と、私の方ではなく、隣にいる沙織に話しかけていた。


よく考えたら当然だ。
私は彼と面識が無いのに話しかけられるわけがない。
私は密かに安堵のため息をもらし、沙織と土橋修の会話を居心地悪く聞いていた。


間近でみる土橋修は、自分が思ったより背が高く、色黒な肌も、骨張った手も、低くて落ち着いた声も、不思議と私の心をとらえて離さなかった。


「あ~、すっかり忘れてた」


沙織がペロッと舌を出した。


「おい、ふざけんなよ。明日持ってこい!」


言葉こそキツいが、土橋修の表情は柔らかい笑みを浮かべていて、冗談を言い合える仲なんだということが伝わってくる。


私は、なぜか沙織が羨ましく思えて仕方がなかった。