とにかく土橋修に話しかけなくては、と言うプレッシャーから、
私は自然と土橋修の姿を目で追い、様子を伺い、話しかけようかと意気込んでは怖じ気づいてしまうということを繰り返していた。



「桃子~」


友人の沙織が私の席に駆け寄る。

いつの間にか日本史の授業は終了していたみたいで、あちこちでワイワイと雑談する声が聞こえてきた。
周囲を見回すと、みんなおしゃべりしながらゾロゾロと教室を出て行く所である。


「あ……、次は何だっけ?」


「体育じゃん。
どうしたの、最近ボケーッとしてばっかり」


沙織はそう言って、首を傾げてくりっとした大きな瞳をこちらに向けた。


パラリと肩から流れ落ちる緩やかなパーマのかかった栗色の髪の毛と、綺麗にビューラーで上を向けられた長い睫毛が今日もバッチリ決まっていた。



私は力のない笑顔で沙織を見ると、


「最近あまりよく眠れないんだよね」


と、めんどくさそうに言った。