そして、放課後。
あたしは、ありったけの勇気を振り絞って市原君に話しかけた。
「…ぁ、あのっ」
教室にあまり人がいなくてよかった。
市原君は「ん?」と言って振り返る。
そして「あぁ。今朝の」と短く言って少し笑った。
「あのっ。け、今朝は本当にありがとうございました…!」
心の中では、もっと沢山の感謝の言葉が出てくる。
でもあたしにはこれが精一杯だった。
市原君はまた笑った。
「助けられてよかった」
……優しすぎるよ、市原君………。
しばらく沈黙が続いた。
もう教室には誰もいなくて、あたし達2人だけだった。
沈黙を破る様に、市原君が口を開いた。
「じゃ、帰るか。玄関まで一緒に行こ」
バッグを持った市原君があたしを手招きする。
「は、はいっ」
市原君、いい人だな。
モテるわけが少しわかった様な気がした。