「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
「あーうん、わかった」
そう言うと、凛人は暗闇に消えて行った。
それから数分もたたないうちに、後ろからガサガサっと音がした。
あたしは凛人だと思い「凛人ーあのさー」と呼びかけた。
…返事がない。
あたしはとっさに振り返る。
あたしは必死に目を凝らすけど、さっきまで明るい夜景を見てたから、まだ暗闇に目がなれない。
そしてようやく目がなれた頃に、相手は凛人ではなく、しかも1人だけではない事がわかった。
ゆっくりとその影が近づく。
あたしは震える声を隠して「誰ですか?」と尋ねる。
「誰って、まぁ千尋さんと同い年」
なんであたしの名前知ってるの?
同い年なんて、なんでわかるの?
「凛人はさぁ、俺らの中学の同級生」
5人いるうちの1人が話す。
「あいつモテんのに、散々女子フって泣かしてんの。悪い事は言わねーからさ、今のうちに俺にしとけって」
はい…?
あの、意味がわからないんですけど。
「どーせ、千尋さんも1回くらい泣かされたでしょ?俺なら泣かせないから」
この人は、頭大丈夫なんだろうか。
知りもしないあたしに向かって、俺にしとけ?
「凛人はな、女子泣かしてもなんも感じねぇやつなんだよ。それなのにあいつは、次々と女子を惚れさせていって…俺の彼女とったのも、あいつだよ…」
それはあなたの彼女さんが気移りしやすい方だったんでは?
決して、凛人のせいではないと思うんだけど。