桜舞う季節。いや、正確に言うと桜なんか舞わない。
舞うのは、俺たちの…特に、女子生徒の心である。

「ねぇ、日野公園がいいんじゃない?」
「あそこガキが多いのよね」
「あんたん家の近くにある河川敷は?」
「ダメダメ。あそこはオッサンが多いの」
「えーっ」
「邪魔者ばっか…」

3~6人で集まって、花見の計画を立てる女子。
時々、思いついたように、特定の男子グループを誘っている。

「ねね、あんた達もいく?」
「え?」

そんなあいつらを眺めていると、背後から声がした。

「あ、俺?」
「うん、そう。なんか美男美女グループのやりとりを羨ましそうに見てたからさ」

哀れになって?と、確実に語尾に草を生やしたそいつは、ニヤニヤと笑っていた。


・・・自己紹介が遅れたな。俺は木田 亮一(きた りょういち)。
ここ、樋野ヶ丘学園中等部の、3年B組。
大した特技があるわけでもなく、格好いいわけでもない俺は、唯一残った長所、背の高さを生かしてバスケ部の副主将をしている。
この小生意気な女子は、飯島 茜(いいじま あかね)。俺のクラスメイトだ。
成績優秀スポーツ万能、類を見ない美人だというのに、口が悪い。
とにかく、人を馬鹿にしたような言葉を使うため、男子からは人気がない。
女子からは・・・女子からは、『茜さん』と呼ばれる、姉御肌。
男子と女子の態度の差が激しい。

「で?行くの、行かないの」
「もちろん行くー!」
「他に誰がくんの?」

同じくバスケ部の、飛田 浩樹(ひだ こうき)と田中 基(たなか はじめ)が食いつく。

「えーとねぇ・・・琳と光と椎・・・かな」

飯島があげたのは、竹中 琳音(たけなか りんね)と澪田 光(みおだ ひかり)と佐々木 椎名(ささき しいな)だ。

「おい亮一ぃ、おまえも行くよな?」
「行かねーよ、どうせ場所取りとかさせられんだろ」
「やぁね、人聞きの悪い、させないよそんなこと」
「嘘付け、小学校の頃、騙されたんだぞ、それで」
「え?あったっけそんなこと」

とぼけたって無駄だぜ、と言い捨てて、俺は手元にあったノートに意識を集中させた。