「おはようございます」

いつもと変わらない出勤の中で、ひとつ違うのは、ほんの数時間前まで聡士と抱き合っていた事。

あんなに明け方まで抱き合っていたのに、早朝には帰ってきちんと仕度をして仕事に来ている。

そこは、感心するけれど…。

「おはよう佐倉」

「おはよう、嶋谷くん」

事務的な挨拶をし、お互い何事もなかったかの様に仕事をする。

そんな事が自分に出来るんだと、今さらながら新発見をした気分だ。

今日は大翔とのアポはなく、一日お得意回り。

そんなスケジュールを確認していると、

「由衣、今日ちょっと時間空かない?」

亜子が声をかけてきた。

きっと、聡士の事だわ。

昨日も何か言いたそうだったし。

覚悟を決めて、「午前中なら大丈夫」と答えたのだった。

「良かった。じゃあ、出る時に声をかけて。私はいつでもいいから」

ホッとした様に、亜子はデスクへと戻って行った。

すると、聡士がイスを滑らせ小声で話しかけてきたのだった。

「佐伯、何か切羽詰まった感じじゃねえか?」

目線は亜子に向け、聡士は不審がっている。

そうか。

亜子に聡士との関係を話しているって、本人は知らないものね。

「そうね。仕事の悩みじゃない?」

あくまで、噂は知らない振りだ。

適当にあしらうと、午後の準備を整え、亜子を誘いに行ったのだった。

「じゃあ、出ましょ」

亜子もカバンを掴むと、足速にオフィスを出る。

相当、急いでいるみたいだ。

「亜子?何かあったの?」

会社から少し離れた頃、そう聞いた私に、亜子は険しい顔を向けた。

「何かあったのは由衣でしょ?今度の新車のプロモーション、大翔くんだっけ?元彼が一緒なのよね?」

早口でまくしたてる亜子に、一緒呆然とした。

「何で知ってるの?」

「…聞いたからよ」

「誰に?」

一呼吸置き、ゆっくりと亜子は答えた。

「嶋谷くんに」

「聡士に!?何で!?」

何でそんな事を亜子に話すの?

というより、一体いつの間に二人は、そんな話をしていたのよ。

混乱する私の腕を軽く引っ張ると、亜子は近くのカフェに入った。

「とにかく、由衣の話を聞かせて」