それがホテル側で使えないといけない為、大翔経由で依頼をしていたのだった。

「うん。行く!お昼からでもいい?」

「いいよ。聡士と時間合わせて来て?」

業務連絡が済むと、そのまま電話は切れた。

「やけに浮かれてるじゃん?」

小声で話しかけてきた聡士に、電話の内容を伝えると、渋い顔をしたのだった。

「俺、今日は無理だ。アポが埋まってる」

「そうなの?でも急だから仕方ないわね。私一人で行ってくるから」

「えっ!?一人で?」

そんなに驚く事かと思いながら、無視をして用意を始める。

「今から準備をするのか?」

「午前のアポが終わってから、真っ直ぐ向かう事にする。じゃあ、また夕方にね」

聡士の言う通り、浮かれているのは自分でも分かる。

でもいいじゃない。

聡士と私は恋人同士じゃないのよ。

何も解決しないまま、聡士に惹かれている自分が怖い。

だからって、大翔を利用するつもりもない。

ただ、昔の幸せだった頃を思い出して、少しの間現実逃避がしたいだけ。

それだけ…。

午前中のアポは問題なく済み、午後一番に大翔のホテルへと向かう。

自然と速くなる足取りで入ると、受付で大翔を呼び出してもらった。

「ドキドキする」

聡士がいないだけに、緊張も増してくるものだ。

「あれ?聡士は?」

背後から、大翔の声が聞こえてきた。

慌てて振り向くと、前回と同じ黒いスーツをまとった大翔が立っている。

「アポで埋まっていたんだって。だから、私一人で来たの」

「そっか。急だったもんな。由衣は大丈夫だった?」

「私は大丈夫。だから、気にしないで」

そう言うと、大翔は優しく微笑み、当日会場となる部屋へと案内してくれたのだった。

「実際に使って、感触を確かめてみて。今なら修正がきくから」

「うん」

二人でエレベーターへ乗り込むと、大翔からあの香りがした。

聡士もつけている香水。

「大翔、この匂いまだつけてたんだ?」

「ああ、覚えてた?なかなか変えられなくてさ」

思い出すな…。二年前までの私たち。

「由衣…」

ふと、大翔が呟く様に呼んだ。

「何?」

緊張が解けない中で、大翔をゆっくり見つめる。

すると、その目はそらされた。

「いや、何でもない…」

そしてエレベーターは開き、私たちは降りたのだった。

今、何を言おうとしたんだろ?

聞きたかった…。