大翔には、朝一番でメールを送った。
『気付けなくてごめんね。また私からも連絡をするから』
こんなフォローで、大翔が安心出来るか分からないけれど、とにかく送らずにはいられなかった。
すると数分後、返事が返ってきたのだった。
『わざわざありがとう。また電話するよ』
“また電話する”
付き合っている時に、何度聞いたセリフだろう。
その言葉に胸がときめいて、電話が鳴るのを心待ちにしていた。
でもそれは、今も同じの様な気がする。
返事を貰えて嬉しかったから。
「流されない様にしなきゃ」
頭では分かっているけれど、聡士と二人きりになると、その理性も折れるからいけない。
「おはよう、佐倉」
そんな私の気持ちなんて知る由もない聡士は、今朝も変わらず挨拶をしてくる。
噂になっている事を知りながら、それでも私と距離を置こうとしない理由は何?
それを考えて、慌てて頭の中で打ち消す。
そういう余計な事を考えるから、流されるのよ。
どうだっていいじゃない。
そんな理由、私には関係ない。
付き合おうとか言われたわけじゃないのに、体だけ求められるなんて、自分が軽く扱われている証拠だ。
そうよ。だから、流されちゃダメ。
「おはよう、嶋谷くん」
事務的に挨拶を済ませると、デスクへ着いた。
そんな私に、聡士は少し恨めしそうな顔を向けただけで、パソコンに向かっている。
きっと、こういう所が噂になるのだろう。
聡士も聡士で、普通に流してくれればいいのに。
そんな事を思っていると、デスクの電話が鳴った。
「はい、佐倉です」
珍しいな。連絡なら、たいてい携帯なのに。
すると、
「ごめん、由衣。俺だよ大翔」
「!?尾崎さん!」
“大翔”と言い間違えない様に、一呼吸置いて名前を呼んだ。
それに、いち早く聡士が反応している。
「ごめんな。携帯より早く連絡がつくかと思って」
「ううん。いいのよ。それより、どうしたの?」
胸が高鳴る。
二年も聞く事のなかった声が、こんな当たり前の様に聞けるなんて…。
「実は、由衣たちのプロモーションで使うネットの背景があったろ?依頼されたのが早めに出来たんだ。もし都合が良ければ、確認に来てもらえないか?」
「本当?もう出来たの!?」
今回の新車発表は、いつも以上にネットを駆使する予定だ。
3D効果などを使う為、専門家に依頼していたのだ。