その後は、まともに会話が出来なかった。
聡士は、私に気を遣っているし、私は私で聡士の気持ちがますます分からない。
アパートに着くと、当たり前の様に部屋に入り、聡士は私を抱きしめてきた。
「悪いのは俺だから」
「会社の人に見られたって話よね?誰かに言われたの?」
「一応、上司から忠告された」
やっぱり、そうなんだ。
亜子だって知っているくらいなんだから、相当な噂になっているのかもしれない。
「で、でも何で忠告されたの?万が一、私たちが付き合っていたとしても、社内恋愛はOKでしょ?」
一香に話したかどうかは分からないけれど、私に話してくれる?
自分の中で、半ば賭けをしてみた。
すると、聡士は私を離し少しだけ目を泳がせている。
きっと迷っているんだ。
話そうか話すまいか…。
はぐらかす?
それとも…。
「実はさ」
まっすぐ私を見つめると、ゆっくりと話し始めた。
「はっきりと、決まっているわけじゃないんだけど、いずれ海外赴任を打診されていて…」
「そ、そうなの?」
話してくれた。
私に、ちゃんと話してくれた…。
それが嬉しくて、心がどこか弾む。
「うん。だから、まあ…。あんまり浮つくなって、注意を受けただけなんだ」
苦笑いをした聡士は、『由衣が気にする事じゃないから』と、その話をそれ以上しなかった。
私も知らない振りをして、それ以上は追及しないでいた。
そして、当たり前の様に重なる唇。
強く、強く重なる唇が離せない。
「嫌がるかと思ったけど」
そんな聡士の言葉も、今は耳をすり抜ける。
今、分かった気がする。
私は聡士に惹かれている。
こうやって二人きりになると、心を開いてくれると、やっぱり胸はときめいてしまうから。
聡士の唇は首筋に延びてきて、ゆっくりとベッドへと倒れた。
そして大きくて温かい手が体へと届いた時、私の携帯が鳴ったのだった。
「無視しろよ。後でいいだろ?」
「でも、滅多に鳴らないから気になるよ」
一瞬、我に返る。
もしかして、大翔からじゃないかと思ったら、一気に現実へと戻ったのだった。
「俺より電話が気になるの?」
「だって…」
起き上がろうとした私を、聡士は力ずくで押し倒す。
「後にしろって」
そうして再び、唇を塞ぐのだった…。