「佐伯君…泣いてるの?」
名倉が俺の顔を覗き込む。本能的にそらしてしまう。
「シイちゃんとすれ違ったの…なんか泣いてたよ?」
――――ズキン
やっぱり…罪悪感が込み上げてくる。
謝らないと…!
立ち上がって、シイの後を追おうとしたその時…
ギュッ…
手を掴まれた。
シイには無い女子らしい弱い感じ…
でも強く握られていることは分かる。
けど何で……?
「えっ…?」
「…何でシイちゃんばっかり…?」
「ちょっ…名倉?」
「シイちゃんじゃないけど私なら佐伯君を支えられるよ?」
「私、佐伯君のことが好きだから」
名倉の手が俺の背中に回ってくる。
「…でもっ」
“俺はシイのことが…”と言おうとしたけど思わずいいとどまった。
《シイと渡川は両思い》
ということを思い出したんだ。
…なら仕方ねーのかな……
ずっとシイを想い続けてもしょうがねーのかな…
そう思った時には俺の手は名倉の背中に
回っていたんだ……