自分の演奏が終わって、僕は盛大な拍手を受けたあと、お辞儀をして舞台裏へと戻った。
すると、休憩を挟み僕のあとに演奏をする、二歳年上の男の人が、僕を見てにこりと笑った。
「君、上手いんだね。でも、俺も負けないよ。」
そして、手を差し延べてくる。
「握手してよ。」
その手は、温かかった。
緊張なんて微塵も感じさせない、血の通った手だった。
この人は一体?
柔らかな笑みの中には、かぎない闘争の目がある。
その闘争の目の中に、自分の意思がある。
きらきらと輝くその瞳から、それが感じとれたのだ。
曲はロパルツ作曲の『アンダンテとアレグロ』。
この曲は、その曲名のごとく。
アンダンテとアレグロが交互にでてくる曲だ。
僕は急いで客席に行き、その人を見つめた。
アンダンテは大人の演奏ように穏やかで優しい音色なのだが、曲想を全く崩してはいない。