三年生の中の最後、部長の風間那音先輩が楽器を構えた時だった。
空気がパリッと乾燥したように緊張感が漂う。
田中さんのものとも違う。
明のものとも違う。
―――この感じ、知ってる――――?
那音先輩は、小説の指定された箇所を吹いた。
ファースト・トランペットと、エス・クラリネットとのソリ。
クラリネットの超絶技巧の一部分と重なるそれは、鮮やかなほどに鮮明なメゾフォルテ。
これまでの先輩方の感覚とは全く違う。
繊細、そして華麗で鮮やかな音色が僕らを包む。
――――謎の敗北感が僕をくるんだ。
どこかで見下していた先輩方の演奏が、こんなにも圧倒したものだったなんて――――。