「練習熱心で嬉しいわ。学校でもトランペットでトップなのでしょう?」
「・・・・いや、そんなことないよ。」
「謙遜しなくていいのよ、吟。」
母親は、誇らしげに僕を見る。
でも僕は、本心を言った。
今までなら、僕はうんともすんとも言わなかった。
初めてだ。
本心を母親に言ったのは。
僕の周りには、すごい人たちが沢山いる。
一人で誰にも言わずに練習する人がいるんだ。
母親は、世の中を知らない。
完璧な設備がなくても
お金がなくても
英才教育がなくても
こうして、僕と同じようにトランペットを吹いている人がいるんだ。
「吟が蒼みたいにならなくてよかったわ。」
母親は、いつもこのようにして、兄をけなす。
・・・・母さんの言うこと聞かなかったから。
でも、今ならわかる。
兄が母親に逆らった意味が。
僕は、さっさと食事などをすますと、部屋に篭った。