「元気がなかった?」


「あぁ。お前が”オーディションには受けないことにする”って言ったときから、お前の音色がいつもと全然違った。」


「音色が違った?」



僕は、そんなこと全然気づかなかった。

音色が違う?僕は今日もいつも通りに楽器を吹いたつもりだった。



「お前ってさ、”いつも澄ました顔でウザい”って、陰口叩かれるだろ?」


「・・・・そうだね。そんなつもり僕はないんだけどさ・・・。」


「表情を作るのが、苦手なだけなんだろ?
本当なら言い返したりできるし、悲しい顔だってできたはずだ。
でも、お前はしなかった。
澄ました顔をしてるわけじゃない。
表情を人に表すのが苦手なだけなんだ。
・・・・んでさ、俺、気づいたんだよ。
お前は音色に表情がでるやつなんだなって。」




僕は驚いた。


山田君は、いつの間にか僕の音色をとても聞いていたのか。


そしてそれと同時に、今までにたくさんの音色を聞いてきたことがわかる。


山田君は、じっと僕を見つめた。

そして、真剣な眼差しで僕に言ったのだ。