「あの時の吟は、酷く怯えていたね。」
那音先輩は僕の手を離して、僕を見つめる。
「演奏は素晴らしかったと思う。
正直、俺だって一位は吟だと思ったしね。
だって、君にはレッテルがあったんだよ。
”天才トランペット少年”っていう、俺は付けられたことのないレッテルがね。
まさか一位で予選通過したのが、二歳も年下の君だったなんて、って俺は思った。」
再び、お弁当の残りに手をつけて、那音先輩はぱくぱくと食していく。
那音先輩は、すごく”大人”な気がした。
すべてが優雅で、余裕があって。
それはまるで英国紳士のよう――――。
「でも、吟の音はとても孤独な音だった。
なんの信念もない、やらされている音楽。
誰にも近寄らせない、一匹狼のトランペッター。
僕はそんな印象を受けたよ。」