「……ていうか、マジでないの?」
「え?」
「……俺の分」
あ……そうだ。
「……あるよ」
……ないわけないじゃん。
一番気合い入れて作ったんだもん……。
……あたしは後ろ手に隠していたラッピングされたものをそっと大和に手渡した。
大和はそれを受け取ると、少し不思議そうな顔をした。
「大和?」
「……なんか、先輩達が持ってたのと違う気がする」
あ……。
……間違えないように、大和だけ違うラッピングにしたんだけど……。
……本人にバレると……何か恥ずかしい。
「………うん。違うよ」
「……え?」
「だって、大和のは……」
「……俺のは?」
大和がじっとあたしを見つめる。
……ドキドキが止まらなくて……でも大和から目をそらすこともできなくて……
「お……幼なじみのよしみってやつで!」
「……は………?」
はっ……!
つ、ついごまかしちゃった……!
また……今年も言えなかった。
あれだけ悩んだのに、結局……
「……幼なじみ、ね」
心なしか大和が少しガッカリしているように見えた。
「これで大和、最下位にならずに済むね!」
「最下位?
………え、何……蓮から聞いたの?」
「うん」
「マジか……アイツ、どこまで話したんだ……」
あとでシメる、とボソッと大和が呟いたのが聞こえた。
「けど……勝負してるなら、何で他の貰わなかったの?」
あたしが疑問に思ったことを素直に聞いてみれば……大和はあたしの顔を見て優しく笑った。
「……いいんだよ、これで」
「え?」
「……俺はこの一個だけで十分だから」
そう言う大和の顔はすごくうれしそうで……でも、あたしには大和の言ってる意味がよくわからなくて、首を傾げた。
そんなあたしを見て大和は小さく笑いながら、カバンを肩にかけ直した。
「ほら、早く帰る準備てこい」
「え?」
「置いて帰るぞー」
「あ、す、すぐ準備する!」
そう言って、あたしは女子更衣室にある荷物を取りに行こうと部室のドアを開けた。
……すると、ドアを開けたすぐそこに見覚えのある人物が数人立っていた。
「あれ……先輩達?」
なぜか先輩達と蓮ちゃんが入口に立っていた。
「帰ったんじゃなかったんですか?」
あたしが首を傾げながら聞くと、鳴瀬先輩が苦笑いしながら口を開いた。
「帰ろうと思ったんだけど、玲が……」
「愁だってノリノリだっただろうが」
「面白いものが見れると思ってねー、残ってたんだよー」
面白いもの……?
すると、あたしの後ろから大和が何か焦ったような様子でやってきた。
「せ、先輩達……。
……まさかずっと……」
「よかったな、大和。
ようやく貰えて」
「南雲先輩!」
「たとえ義理だったとしても、好きな人から貰えた俺は勝ち組……ってことか」
「れ、蓮!」
「え?蓮ちゃん、好きな人から貰ったの?」
「ん?いや、俺じゃなくて……」
「蓮、もういいから!!
栞奈、早くしないとマジで置いて帰るからな!」
「え、ちょっと待ってよ!!」
結局、何も伝えられなかった。
でも……なぜか今年はそれでもいいって思えた。
何でかな……。
分からないけど……
「大和、待っててば!」
「あー、分かったから。
走るな、転ぶから」
大和があたしに笑顔を向けてくれるから、
何だかんだ言って、いつもあたしの歩幅に合わせてくれるから、
そういうことが全部改めて実感できたから……
それだけで……あたしは十分幸せ者だと思えたのです。
―fin―
翔太side
「高瀬せんぱーい!!」
俺が大声で先輩の名前を呼ぶと、先輩は苦笑いしながら振り返ってくれた。
俺の言いたいことが分かったのか、ゆっくり首を横に振った。
「今日はダメだ」
「え!何でですか!?」
いつもなら喜んで相手してくれるのに!
俺が疑問に思っていると、高瀬先輩の後ろから副部長である鈴山先輩が現れた。
「鈴山先輩……?」
な……何か怒ってる?
俺、何かした!?
俺がビクビクしながら鈴山先輩を見ていると……
「……翔太」
「は……はい!」
「……お前、今朝の数学の補習サボッて朝練に来たらしいな」
「ギクッ!!」
バ……バレてる!
な、何で!?
ってか、鈴山先輩の目がマジで怖い!
「お前のとこの先生から苦情が来たぞ」
「ま……マジですか……」
「マジだ」
こ、怖いよ……鈴山先輩……。
助けを求めて高瀬先輩を見る。
でも高瀬先輩はそんな俺を見て失笑したまま首を横に振った。
「そ……そんな!!」
高瀬先輩は俺の味方だと思ってたのに!
「翔太、お前の数学の成績……ヤバいんだったよな?」
「は……はい……」
「もし、これ以上成績悪くなったら……お前、試合に出られないぞ」
「えぇ!」
そ、そんなの……嫌だ!!
「俺、試合出たいっす!」
「……じゃあ、勉強するしかないな」
今まで黙っていた高瀬先輩がボソリとそう呟いた。
べ、勉強……。
「勉強も嫌っす……」
「じゃあ仕方ないな。
翔太にはレギュラーから外れてもらって……」
「ま、待ってください!
本気ですか!?」
スタメンだけじゃなくてレギュラーからも外されるなんて……!
「本気だ」
鈴山先輩の鬼……!!
誰か……誰か俺を助けて……!
そう思った……その時。
「あ……いたいた、花井君!」
はっ……岬先輩!
岬先輩なら助けてくれるはず!
そう思って期待に満ちた目で岬先輩を見る。
先輩はいつものように優しくニコッと笑いかけてくれた。
「花井君」
「はい!何でしょう!」
「顧問の先生からの伝言なんだけどね」
「はい!」
「明日から部活に来なくていいから、だって」
「はい!…………って………えぇぇぇ!?」
……翌日の放課後。
俺は誰もいない教室で大量のプリントと格闘していた。
ちぇー……補習サボった罰がこれかよ。
しかもこれ終わるまで部活来るなとかさ……。
先生は三日で終わるとか言ってたけどさ……
俺の学力ナメんなし。
……こんなの一週間でも終わらないっての。
「はー……」
バスケしたーい……。
「ていうか、全然分かんないし……」
サッパリ。
ちんぷんかんぷん。
俺はシャーペンを雑に置き、天井を仰ぐ。
「はーあ……」
こんなことしてる場合じゃないっての。
もうすぐ予選始まるのに……先輩達と一緒に頑張らなきゃいけないのに。
そう思いながらプリントもはかどらずにただボーッと天井を見つめていると、
教室の扉が開く音がした。
「花井?」
聞き覚えのある声に視線をそちらに向けると……クラスメートの女子が立っていた。
「栗山か」
栗山香帆。
同じクラスで……結構気の強い女子。
「アンタ、こんなとこで何やってんの?」
「何って……見ての通り。
お勉強だ!
俺は勤勉だからな!」
「……それ、補習のプリントでしょ」
「なっ……わ、分かってるなら聞くなよ!」
栗山は小さく笑うと、俺の前の席に腰掛けた。
「部活大好きな花井が放課後に教室に残ってるなんて、それ以外考えられないでしょ」
「うっ……」
た、確かに……。
いつもはホームルームが終わるとすぐに教室を飛び出していくからな、俺。
「ていうか、そんなたくさん……終わるの?」
「お、終わる!
終わらせてみせる!
じゃなきゃ部活出れないし!!」
今度こそは高瀬先輩と1on1するんだから!
「ふぅーん……」
栗山はじっとプリントの山を見つめる。
……そして、何かを思いついたようにニッと怪しげな笑みを浮かべた。
そして……
「手伝ってあげよっか?」
思いもよらぬことを言われた。
「……え?」
思わずポカーンとしながら栗山の顔を見つめる俺。
え……今何て言った?
手伝う?
あの栗山が?
「……明日は雪が降るな」
「ちょっと!
せっかく厚意で言ってあげてるのに!」
「いや、だっておかしい!
栗山が自ら手伝うなんて!!
見返りか?
見返りが目当てなのか!?」
「見返り?
んー……そうね、ジュース一本で手伝ってあげる」
い、い、一本?
あの、栗山が?
たったの100円ちょいで手を打つだと!?
「栗山……熱でもあるのか?」
「失礼ね!
やっぱ帰る」
「ちょ、ちょっと待って!
悪かった!
俺が悪かったから帰らないでくれー!!」