「ねえ、しず、さっきからどうしたの?」
不思議そうに見つめてくる香里奈の瞳には、間違いなくしずくが映っている。
「香里奈とは恋人だよね?」
「ずっとそうじゃん。寝ぼけてるの?」
「ずっと?」
「忘れたの?」
自分のものとは思えない記憶を手繰り寄せてみると、確かに付き合うきっかけになった出来事を思い出せた。
あれは数年前、香里奈に告白されて断ったはずなのに、手繰り寄せた記憶では、その時から付き合ってることになっている。
あそこが分岐点なのだろうか。
去年出会って付き合ってたはずの千秋は、この新しい記憶の中で、店の常連であり、ただの友人という関係のままだ。
これを明晰夢と言うのだろうか。
どちらかと言えば、パラレルワールドに迷い込んだ感じがした。