千秋は元々、よく飲みに行ってたビアンバーのスタッフ、富永の友人だった。
美容室を変えたいと漏らしていた千秋に、富永がしずくを紹介して知り合ったのだ。
お互い、最初からビアン同士だと知って知り合った二人は、ノリもよく、好きな映画や音楽も似ていてすぐに仲良くなった。
千秋はしずくを美容師としても気に入って店の常連になったし、それから二人が恋人になるまで、そう時間はかからなかった。
こちらの世界では、千秋とどういう関係だったのかと考えてみる。
すると、富永に紹介されたのは同じだったのに、しずくには彼女がいるからと、遊びに行ったことさえない間柄だった。
昨日、正確には10時間ほど前まで抱いていた相手が、今は友人の友人で、店の常連というだけの繋がりしかないということが改めて不思議だったし、急に恋しくて寂しくなった。
千秋の予約は午後2時。
メニューはいつものように、カットとヘアカラーで、指名は勿論しずくである。
あれこれ思いをめぐらせているうちに朝礼の時間になっていて、しずくの複雑な気持ちを整理する間もなく、時は流れていった。