「香里奈」
無意識に名前を呼んだら、胸の中に暖かさが広がった。
「香里奈」
確かめるようにもう一度呼ぶと、香里奈の手がそっとしずくの頭を撫でた。
「香里奈」
「うん」
「香里奈」
「うん……ここにいるよ」
安心できるのは何故だろう。
出来上がっていた恋人関係の中に入り込んだからだろうか。
それとも、香里奈の存在のせいなのか。
何も分からないままに、もっと香里奈を感じたくて、しずくは少しだけ動きを激しくした。
「しず……」
息も声も何一つ漏らさないように密着させたキスは、まるで香里奈との境界を夢中で掻き消そうとしているようでもあった。
ふいに頭の奥で『一つに溶け合えたらいい』と言っていた香里奈の声が聞こえた気がした。
それを言われたのが、どっちの自分だったのか判別できないほど、その時のしずくは香里奈に溺れていた。