「しず、痛いよ」
「我慢できない?」
無言の香里奈の瞳にも、戸惑いの色が浮かんでいたけれど、しずくはあえて強く踏み込むことにした。
こんな風に突然違う世界に迷い込むことは、ある意味、今までの自分との決別であり、その意味は死にも等しい。
今まで躊躇していたことにも少し踏み込みたくなるのは、そんなことを感じ取ったからかもしれない。
今までいた世界に戻れないのなら、そこには大小たくさんの後悔が残ることになる。
それはどれもこれも、自分に踏み込む勇気がなかったことと、時を見送ってきたことに起因していると、いやがおうでも認めるしかなかった。
どうせ人生が狂ったのなら、もっと大胆になって踏み込んでみるのもいいと、そんな気がしていた。
配慮を欠くことは筋が違っていても、挑戦してみるのは悪いことではない。
しずくは駄目元で、香里奈にぶつかった。