主任の右手が私の二の腕を掴んでいて、コート越しにもその手のひらの大きさが伝わりました。
女性のそれとは違って骨ばっていて
あったかい。
それまで男性とこんなに近くでお喋りするこもさながら、当然誰かに触れられることもなかったので
突然のことで私は驚いたままその場で固まってしまいました。
顔はやたらと熱いのに、手足の指先は凍るようように冷え切っていました。
「大丈夫?気をつけて」
主任は何でもないように笑顔で言うと、私の腕から手を離しました。
力が抜けてしまった足元がぐらぐらして、私はまたもふらついてしまいした。
「おっと。大丈夫?酔った?」
主任は私がお酒に酔ったと勘違いしているのか、今度は私の手をとって安全な道へと導いてくれます。
凍えるように寒い冷気の中、私や主任の吐く息が真っ白でした。
それなのにはじめて触れた主任の指先はまるで熱を持ったように熱い―――
力強くリードされるまま、私は雪が少ないなるべく安全な道へと案内されました。
手を握ったまま。
「冷たい手だね。冷え性?」
そう聞かれて私は慌てて首を縦に振りました。
「そうか…女の子は体を冷やしちゃいけないよ」
主任はにこやかに笑って、そっと手を離しました。
私ははじめて握られた手の行方をを名残惜しそうに見つめていましたが、
ここではじめて気付いたのです。
白い街、まるで羽根のように美しく白い雪が舞い降りるその空の下
冷たい空気を含んだ風が運んできたその香りに―――