君は自分のことを大してとりえもなくさほど美しくないと自分を卑下されていたが、そうではない。
君は、僕たちが気付かないところで細やかな気遣いをしてくれたことは知っていましたし、
おっとりと上品な君の笑顔はどこかほっと落ち着くものがありました。
君は知らないでしょうが、課の連中はこっそり君のことを
『癒し系、雪ちゃん』と呼んでいましたよ。
僕がみなにならって君のことを『雪ちゃん』と親しく呼ばなかったのは、
誰かと一緒の呼び方をしたくなかったのかもしれませんね。
或いはどこかで線引きをしていたのか―――
超えてはならない自分の感情に。
と、僕の私情はさておき。
君は課のマスコット…いえ女性に対して失礼ですね。
こんなこと申し上げるのは恥ずかしい限りですが、「マドンナ」と言った方が正しいでしょうか。そんな存在でした。
まぁ今そのことを知ってもどうにもならないですけどね。
僕も君の控えめな笑顔に癒された一人です。
君も手紙で書かれたように総イッカの仕事はなんでも屋で、僕だってプライドを持ち合わせているわけですからね
せっかく名のある会社に居ても誰でもできる仕事を押し付けられて辟易していた部分もある。
しかし君がいつでも真面目に仕事に取り組み、
懸命にこなそうと、僕を手伝おうとしてくれるその姿勢が―――眩しくて
いつからか癒し系から
違う何かの感情に変わっていった。
手袋をなくしたあの日、
同期連中から
『そう言ってお前~手袋落としたフリしてさりげなく雪ちゃんと手繋ごうとしてんじゃねぇの?』
そう言われたことにドキリとしました。
図星だったからです。
ですが同時に目も覚めました。
僕には妻がいるからです。
君が指摘したとお黒水仙のような香りを纏っていたのは妻です―――