あなたは私の恋心を知っていたのでしょうか。
知っていて、敢えて“それ以上踏み込むな”、
と私に忠告してくださったのでしょうか。
今となっては確かめるすべもありませんが、
しかし
恋に浮かれる小娘の私を
手ひどい言葉や行動で振るのではなく、くっきりと手痛い爪あとを残すわけでもなく、
まるで何ごともなかったかのように
見事なまでにかわされたあなたはやはり―――
優しくて
“大人の男”でしたね。
それはまるで雪のように。
跡形もなく溶けて消えてしまう雪のように―――
あなたは私の心の中に痕跡を残すことなく、消え去ろうとしていたのです。
『上司と部下』それ以上でもそれ以下でもない関係を
保ち続けることを
あなたは何も言わずとも、その道へ促してくださいました。
雪に残った足跡は
二人分だったのでしょうか。
もしかしたらあなたは途中から歩みを止め、
私一人だけ突き進んでいたのでしょうか。
それを考えると、
酷く恥ずかしい想いでございます。
いえ、私たちの間には最初から何もなかった。
ただ雪の日、あなたとお喋りをしただけ。
勘違いも甚だしい。
そのことに気付いてしまったので、
私はもうあなたの隣に居ることはできません―――