結局、私はこの右手の手袋を今まであなたにお返しすることができませんでした。
なぜなら、それは私が手に入れた唯一のあなたの想い出だからです。
バカみたいでしょうが……いいえ、バカ以上にあなたは気持ち悪いと思うかもしれませんが、
あなたの持ち物を大事に飾っておくことが、あのときの私には精一杯でした。
ケータイも当たり前のように普及している時代です。その気になればアドレスを聞いたりナンバーを交換したり
できた筈でしょうが、私にはその勇気がありませんでした。
できれば仕事以外にもお話ししたかったし、ああやって肩を並べて二人きりで歩きたかった。
でもあなたは私の十歳以上も年上の大人の男。
私なんて相手にされないことが分かりきっていたし、何より優しい上司と部下と言う関係に亀裂を入れたくなかったのです。
以来、私は変わらずそれから一年あなたの右隣で仕事をさせていただきました。
総イッカの仕事は変わらず、雑用ばかりしていましたが
私はあなたの隣に居られるだけで幸せでした。
勘違いしないでほしいのですが、私はあなたの右からの角度が好きとかそういうものではありません。
あなたの右隣に居たい理由は―――
そうですね、このことは
また後ほど綴らせていただきます。
そう言うわけで私はあなたに恋をして、会社に行くのが楽しみでなりませんでした。
これといった理由もなく毎日あなたの隣に居られるのですから。
それでもやはり私の中に変化は訪れます。
爽やかでハンサムなあなたとつりあうような女になりたい。
隣に並んでいてもおかしくない女になりたい。
と。
図々しくも思ってしまったのです。