広瀬はもちろん、シゴト中に私用の携帯など持ち歩いていない。
メールを送って何時間が経った頃
-----トントン。
誰かが病室のドアをノックした。
きっと、広瀬。
ドアが開く。
「あの。 スイマセン。 メール見たのさっきで・・・・」
『早く来い』など一言も言っていないのに、何故か広瀬が謝りながら入って来た。
「・・・・・シゴト、終わったん??」
きっと急いで着替えてきてくれたのだろう。
私服姿の広瀬の髪が、躍動感を感じる程ぐちゃぐちゃだった。
そんな広瀬の気持ちが嬉しかった。
でもきっと、広瀬がオレに会う為に髪型をキレイに整えて来たとしても、オレは喜んでただろう。
「・・・・・あ、ハイ。 ちょっと前にあがりました」
オレの視線が自分の頭髪に向いている事に気付いた広瀬が、奔放に遊ぶ毛先を両手で押さえた。
「・・・・・広瀬って、天パだろ」
「・・・・・・くせ毛です」
「天パとくせ毛って一緒だろ。 なんだよ『ワタシのうねり具合は軽症です』みたいな言い方は」
「・・・・・・くせ毛です。 ・・・・・おしゃれ風の」
「おばはんパーマやんけ」
今日のオレは、いつもの広瀬のつまらない返しに被せる事が出来るほど穏やかだ。
・・・・・やっぱり、きっとちょっと変れる。
オレの言葉で楽しげに笑う広瀬を見て
オレが変ってくのが分かる。