【未空side】





「…って訳で、今また頭の中ぐちゃぐちゃなんだよね…」





「そっか…」





話しかけられた時はびっくりしたけど、場所を移動している間に落ち着いて、私は全てを彼に話した。





水草くんはやっぱり相槌を打つだけで、ちゃんと聞いてくれた。





この人にだったらなんでも話せるな…不思議な雰囲気の人だ、水草くんは。





水草くんがゆっくりと口を開く。





「…俺が思ったのは…好きか、嫌いか、うやむやにしない方がいいんじゃないかってこと。2人に変に期待させちゃうのは…ね。別に立切さんを責めてる訳じゃないんだ。ハッキリさせられない気持ちもわかるから…」





「うん…」





水草くんは、自分が思ったことを素直に言ってくれる。アドバイスをしてあげよう、とかそんな気持ちじゃなく。





私のことを気遣いながら、ただ、思ったことを言ってくれる。





だから話しやすいのかもしれないな。





水草くんは続ける。





「立切さんがハッキリできないのってさ、桐上くんの浮気のせいでしょ?」





「うん…」





「じゃあさ、」





次の言葉に、私は答えられなかった。









「じゃあさ、その浮気で傷ついたのはどうして?あと、堀くんに対してハッキリできないのは、どうして?」





「そ、れは…」





その質問は、私の心に直接響くような質問だった。





「立切さんの、周りにいる人に対する"好き"って、どの好きかな?友達?恋愛?"もえ恋なんてしない"って決めつけないで、自分の心に素直になっていいんだと思うよ。こうしたら他の人がこうだ、とか、考えなくて。」





「自分の心に…」





そうか、そういえば私は他の人の心も混ぜて考えてた…





自分だけの気持ちじゃなかったんだ。











「そうだよね…うん。水草くん、ありがとう。すごい楽になったよ…」





私は心から水草くんに感謝した。なんだか気持ちの整理ができそうな気がしてきた。





私だけの気持ち。私だけの心。






「俺は何も…でも、楽になったんなら、よかった。」





水草くんのおかげだ。





「水草くん、奈保のこと…協力するからさ。何か私に出来ることあったらいつでも言ってね」





「うん、ありがとう。」





「それじゃ。」





「またね」





水草くんは私の心を楽にして、去って行った。ありがとう、本当にありがとう。








私は家に帰って、ゆっくりと考えた。





自分の心に、素直に…





ーー傷付いたのは、どうして?





透が、好きだったから…





"好きだった"?





今は?今はどうなの?





ーーはっきりさせられないのはどうして?




晃希を失いたくないから。





あれ?私晃希のこと…引き止めるためにはっきりしてないの?





ーーどの好きかな。





恋人として?友達として?





私の、彼らに対する好きはーーー。





私は顔をあげ、真っ白な天井を見上げた。




「そっか、分かった…」







翌日学校に着くと、私が来るのを待っていたかのようにすぐ奈保が現れた。





奈保は私の手をつむと、何も言わずにぐいぐいと引っ張って行った。





私が「どこ行くの?」と言っても振り返りもせず進んで行く。





少しして人通りのない所に着くと、やっと奈保は振り返って、口を開いた。




「昨日水草と2人で何か話してたでしょ?ずっと。声は聞こえなかったけど、だいぶ仲がいいんじゃない?」





奈保は怒ったように言う。





私は冷静に、ああ、あれが見られてたのか。と思っていた。








奈保は続けて言う。





「私が言ったこと何も気にしてないの?透のことはもうどうでもいいの?ねえ!」





私はそれでも冷静に、返事をした。




「見てたんだ、昨日」





「そんなことどうでもいいでしょ!?私の質問に答えてよ!未空は透と晃希じゃ飽き足らず、水草にまで手をだしたの?いい加減にしてよ!!」





パァン





「ーーーった」





頬にじわじわとした感触がする。





奈保に平手打ちをされてしまったみたいだ。







平手打ちをされたのにただ奈保を見ているだけの私に驚いたのか、平手打ちをしてしまった自分に驚いたのか。





奈保ははっとした顔をすると、しどろもどろに責めてきた。





「みっ…未空が、何も言わないから、、いけないのよ!?」






そこで私も口を開く。





「うん、ごめん。」





この言葉に再び怒りに火がついてしまったようだ。






「謝ってほしいんじゃないのよ、私は!」





奈保はそういうと、もう一度右手をあげた。







その時、





「おい、何してんだよ奈保!!」





「!こ、晃希…」





私たちの後ろから、晃希が現れた。





その顔は信じられないものをみた、という顔をしていた。





私たちの方に急いで向かってくると、奈保の右手首をつかみ、下ろした。





奈保は大人しく従い、晃希から逃げるように目を伏せた。





「…奈保、ちょっと頭冷やせ。」





晃希は奈保にそう言うと、私の腕を掴んで歩きだした。





「えっ!?どこ行くの晃希?」





「いーから。」





「…」





いつもより真面目な声の晃希に、私は反論できなかった。








着いた先は、保健室だった。





「?なんで保健室…?」





私が聞くと、晃希が氷の入ったビニール袋を差し出しながら、





「頬、赤いから」





と答えてくれた。





驚いて正面の鏡をみると、たしかにさっき奈保に叩かれた頬が赤くなっていた。





「ほんとだ…」





「…ま、奈保は取り乱してただけだろうからさ…許してやれよ?」





「うん…分かってるよ。」





奈保はそんな簡単に人を叩くような人じゃない。それは親友の私が1番よく知ってる。