「……泣くな」



ぎゅ、と自分を抱きしめる瑛の腕の力が強まる。



「うん……」


「……帰せなくなるから」


「うん、大丈夫」



帰さないで。ここに置いて。


そんなのは、今の自分が、今の瑛に言えることでは到底、ない。


こうなるとわかっていたのだから。


なるべく元気で、瑛が近くにいない生活を送っていかなければ。


わかっているし、多分明日からは普通に笑えるだろうけど。


今はどうしたって、やっぱり寂しいし切ない。


それでも、大丈夫と言わなければ。


この部屋を後にすることが、できない。



「瑛さんも、浮気はダメですよ」


「するわけないだろう。

そもそも、俺は大学に遊びに行くんじゃない」


「はいはい、わかってます。

瑛さんは真面目だもんね」


「ちっ……」