「……なぁ」

「はい?」

「何で俺、ここで寝てんの?」

「は!?まさか、覚えていないのですか?」

「うーん……。微妙……。気分が悪くなって、それから……」

「倒れかかったところを、私が間一髪で抱き止め、途方に暮れた挙げ句、仕方無くここに連れて来たんですよ」




俺のあやふやな記憶がKの言葉によって、鮮明になっていく。

あれ?
じゃぁ、もしかして、あの時の温もりって……。


「な、なぁ。じゃぁさ、俺を受け止めた時さ……」

「はい。抱き止めた時、何ですか?」


抱き止めた!?
あ、そう言えば、さっきそんなこと言ってたなぁ。




「あ、あのさ、その時抱き締めた?」

「嗚呼、はい。抱き締めたかもしれません」

「!」


わーーー!
平然と言うなーーー!!


「お、俺!帰る!!」

「え、あ、ちょっと待っ!」


止めるKの声を無視して、俺は外へ飛び出し、真っ直ぐ家へと向かう。


「失敗した。……パーカー忘れてきた」


そう呟いて、俺はベッドに倒れ込んだ。




あぁ、行ってしまったか。

寝かす時に邪魔だろうと、パーカーを脱がせたが、裏目に出たな。


「これ、どうしよう……。俺、これから行くところあるのに……」


俺は、手に持った黒いパーカーを見たまま、長く深いため息をついた。




「おはようごさいます!世多警部!!」

「おー、お早うさん」


捜査一課の扉を元気よく開ける夏目に、まだ眠そうな世多警部が返事する。


「今日は市役所に行くんですよね」

「あぁ」

「おい!世多と夏目!お客さんだぞ!!」

『客?』




「さてと……」


今俺がいる場所は警視庁内。

普通一般人が警視庁に入るためには、色々手続きが必要なんだが、俺は要らない。

警視庁の人間を装って入ったからな。


そして俺は、捜査一課と書かれた扉を開けた。


「すみません。こちらに世多警部と夏目刑事はいらっしゃいますか?」




「あの、それで私たちに何の用ですか?」

「まぁ、そう急かさずに。まずは飲み物でも、如何ですか?ここ、とても美味しいですよ」


と言う男は“K”と名乗った。


いきなり私たちのところに来て、話があります、と言われて、仕方無く世多警部とついて来た。




そして、現在の場所は駅前のカフェ‘forest’だ。

名前通り、店内は緑で溢れている。

まるで、本当に森の中にいるみたい。




「なぁ、Kさん。あんたは“J”と言う人物を知っているか?」


コーヒーを飲みながら、世多警部が問う。


「何故、そのようなことを聞くのですか?」


少し微笑み、Kもコーヒーを飲んだ。

私は話に耳を傾けながらも、彼を注意深く観察をした。