――駄目、だ。


頭に血が上りきって、
もう自分では制御出来ない。

俺達が今まで過ごしてきた時間を
全てぶち壊すような今の話。

……そんなのって――。


「黙れ」


自分でも驚くぐらい低い声が出た。

冷たくて痛い、
遠慮のかけらもない鋭い声。


カズマは一瞬目を見開いたけど
また眼光を強め俺を真っすぐに見た。

その色のない眼差しを受け止めて
俺はまた言葉を続ける。


「黙れよカズマ。
これ以上ツマンネー話続けるつもりなら
いい加減ぶっ殺すぞ」


だけどカズマは少しも怯んだ様子もなく
パイプ椅子に座ったまま
抱えたギターをスタンドに立てた。


「だからさぁ、そーゆーのも全部
うっとおしいんだよ。
お前が音楽大好きなのはよくわかるけど
他の奴もそうだと思ったら
大間違いだし、
それを人にまで強要してほしくない訳」

「……この…ッ!」


理由のわからない悔しさが溢れて
全身の毛穴という毛穴から
血が噴き出そうになる。

カズマはかったるそうに髪をかき上げると
背もたれに偉そうに反り返った。


「だいたいさぁこんな田舎で
何が出来るって訳?
Down Setみたいにーとか
夢見ちゃってるかもしれないけど
あんな事そうそう頻繁に起こる訳ねーよ。

プロとかデビューとか
そんな非現実的な事
まさかお前ら
本気で信じてる訳じゃないだろ?」


ベラベラとまくし立て
返事も何も出来ない俺らに向かって
カズマはヘラリと笑いかけた。


「ぶっちゃけ重いしめんどくさい。
だからここらでイチ抜けたーみたいな。
……悪いな、お前ら」


その一欠けらの感情も
こもってない言い方に
もう何もかも堪えられなくなって

許せなくて
ムカついて
悲しくて
――裏切られた気分になって

その怒りのまま
両肩を押さえ込まれた状態で
カズマに向かって右足を大きく振り上げた。


「……んの野郎!!」

「リョウ!!」


アキとケンゴは驚いて
俺の名前を叫んだけど
もう止められない――。

瞼の裏に映るのは一面の赤色。


――うるせーよ、クソ野郎。