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「おは、よ、ぅ…ござぃ、まぁす…」
なるべく静かに集中治療室のドアを開けて中を覗いてみる。
忙しそうな様子は今朝はなくて、二人の看護師が治療室を行き来していただけだった。
ガラス張りの治療室が並ぶ手前に、見舞いに来た人が入れるラウンジっぽいところがあり、俺は蒼の部屋の前まで行った。
「蒼…おはよぅ…」
昨夜よりは体に着いてるものが減った蒼をガラス越しに見つめる。
「あら、おはようございます、神崎さんのお見舞?」
後ろから優しげな声をかけられて振り返ると、さっき見かけた看護師の一人が蒼の部屋に入るようだった。
「あ…はい…おはようございます…
あの…蒼はまだ目…覚まさない…ですか?」
「ん~そうね…まだ、だわね…
でも、きっともうすぐ起きるわ、ね!」
笑顔でカラッと言い切ってくれて、ほんの少し嬉しかった。
☆☆☆
昼を過ぎるまで、飽きることなく蒼に話しかけながら傍にいた。
すると、蒼の体が身動ぎした気がした。
そして……
「そ…ら……」
確かに唇が、俺の名前を呼ぶように動いた。
「蒼!!」
俺の声が聞こえたわけではないだろうが、こちらにゆっくりと顔を向けて目で笑ってくれた。
ようやく、本当の意味で誕生日の夜が明けた、そんな瞬間に思えた。