『あの日』。


「なぁ、そろそろ別れないか」
「…ん?うん、いいけど」


頷いたのは、互いに修復不可能だと思っていることを感じ取ったからだ。


「まじで?よかったァ。新しいやつが嫉妬深くてさ、」
「お前二股かけてたのかよ!…それにしても嫉妬か、大変だな。 荷物は?」

「もうまとめた。じゃ、俺いくわ、今月の家賃の半分はいつものとこに置いてあるから。 今まで部屋、ありがと」


思わず笑った。彼も笑っていた。いつぶりだろう。

大きめのバッグを抱えた彼は、玄関でこちらを振り返った。せまいアパートなのだ、リビングにいてもそれがわかる。


互いに、無言。だけど、呼ばれている気がして近くまで行った。