まさか、村中さんのことで怒っているとは、この時のオレには検討つくハズもなかった。


「オレ樹里だから、抱きしめたくなったんだよ。本当だよ」

「……」

「もし怒ってるなら、あんなこと二度としない」

「佐伯。昨日のことで、怒ったりしてるわけじゃないよ」

「本当か?」

「本当」

オレはホッとしていた。
樹里に嫌われる。
それが、1番怖いことだった。



ホッとしたのも束の間だった。
数日後──
事件は起きてしまったのだから。



今日は朝から忙しくて。
樹里の顔を見るどころじゃなかった。