「なに、なに?」

「う〜ん…あ、確かいい事思いついたとか言って、図書館に戻って行ったような…」

「その相手の男が?」

「うん…それで自分が先に、扉の中へ消えて…」

「この世に来たと…って、花倉ダメじゃん、肝心な所すっぽ抜けてる」

「え?」

「いい事って何?」

「ゴメン、分からない…ダメじゃん自分…」

花倉はテーブルに、めり込まんばかりに落ち込んだ。

「まぁ…その男も、教えるつもりない気満々だろうけどね〜」

安達は、日本酒をマスで飲みながら花倉をなぐさめた。

「この先が楽しみだね〜何かあったら教えてね?」

「何かあったらね…」

「しかし、余計に気になるな〜その男の思いついた事…」

安達が重々しくうなずいた。

花倉は今年の誕生日を迎えると、43歳になる…

大学を卒業して星川に会わなくなってから、ちょうど20年になっていた…



「…昔、映画の宣伝で″あなたは会う事が叶わない人を、10年間想いつづける事が出来ますか?″とかあったよね〜?」

「え?20年じゃなかったすか?オレならムリっすね〜20年て、ハンパないっすよ〜」