「何それ?ありえないんだけどぉ」     
       
女は異を唱えた。      

「…それでいいの?」    

じっと目を見て、女は男に問いかけた。

男は目をそらして「それでいいよ」と答えた。

男の闇が、少しだけ垣間見えた瞬間だった。

「じゃあ、そうしてみる…」

女は怒ったように立ち上がると、一人図書館へ戻って行った。

この日以来、二人は別々に作業を始め、図書館でも中庭でも会う事はなくなった。

二人で決める作業はちょうど終わっていたので、何の問題もなく…




次に二人が顔を合わせたのは、扉につづく桜並木の道を歩いている時だった。

通行許可が同じ日に下りたのは、偶然だったのだろうか…

二人は久しぶりに顔を合わせると、フクザツな表情で笑った。

「…いよいよだね」

「うん…」

男が声をかけると、女は短く答えた。





「…じゃあ、伊勢君…後は任せたよ?」

立派な大学三年生になった伊勢は、四年生の花倉・元会長に肩を叩かれると涙ぐんだ。

「ま…任せて下さい会長…オレ、がんばります」

「やだな〜伊勢君、会長は君だろう?」

ふふふと生温かい微笑を浮かべて、花倉は芝居がかったセリフを口にした。

その様子を見て部員は、″だまされてる・だまされてる″と心の中で呟いた。