あたし以外の受験生たちも、みんな受験の緊張を忘れたようにイケメン君に目を奪われている。


でも彼自身は自分に集まる注目に気づきもせず、熱心に教科書を読みながら歩いていた。


あんな頭よさそうでカッコいい人も、緊張して最後の追い込みをしているんだなぁ。


「……ん?」


あたしは目をパチパチと瞬かせた。


あれ? あの人の進行方向に段差があるんだけれど、どうやら気がついてなさそうじゃない?


ちょうどあたしの目の前の辺りに、ほんの三段ほどの小さな階段がある。そこに向ってイケメン君はまっしぐら。


でも彼の目は教科書に釘付けで、前方に注意を向けている様子はない。


……えっと。これは、声をかけて注意を促すべきかな? でも、もしかしたらちゃんと気がついているのかも?


それに、見知らぬ他人に声をかけるのは気が引ける……って悩んでいる間にも、彼はスタスタ進んで階段はもう目の前。


これはやっぱり気づいていないよね!? 早く注意しなきゃ間に合わな……!


――ガクンッ!


イケメン君が階段を踏み外して、あたしは「あぁ!」と小さな悲鳴を上げた。