「でもさ?渡辺さん、どこかわかるの?」


「分かるよ。ちゃんと誘導しておいたから」


これを言った女がニヤッと笑ったことが壁越しでも分かる。


...早く言えよ、唯華の居場所!!


そう思ったけどその女達が更衣室から出てくる気配がした。


とっさにその場から離れる。


...早く探しに行かねえと。


いつの間にか俺は走り出していた。






「ハァ...ハァ...」


...どこにいるんだよ、唯華。


校舎内を走り回ったけど唯華は見つからない。


これはがむしゃらに走り回るより聞いた方が早い?


そう思って近くにいた男子に声をかけた。


「ちょっと聞きたいんですけど...


唯華...じゃなくて、猫耳ついたメイド見ませんでしたか?」


お願い、知ってくれ。


でもまあそんなお願いが叶うこともなく...


「知らないですね」


あっさり返答されてしまった。






「くそっ」


俺は近くにあった壁を力強く殴った。


ジーンと手が痛む。


...ムカつく。


なんで俺のせいで唯華が...


そんな事を考えながらまた走り出した。


...次はどこ探す?


もう校舎内は探したから外とか?


心の中で自問自答を繰り返す。


外なら...どこにいるだろう。


でも行ってみないと分かんないよな。



すばやく靴に履き替えて外にでる。


...とりあえず校庭だよな。


すごい盛り上がっている校庭に足を踏み入れあたりを見回す。


俺がふと目にとまった屋上だった。


今日...屋上で何もやってないのに。


なんで女子たちがいるんだ?


しばらく屋上を見ていると女子たちが動き出した。


文化祭の看板が固定してある紐に手をかける。


グラッと揺れる看板。







もしかして...下に唯華が!?


急いで看板の下へ向かう。




...やっぱり。


人混みをかき分けていくと看板の下には唯華がいた。


俺は上を見上げる。


それと同時に...看板がフェンスから離れた。


すごい速度で落ちているはずなのにスロー再生されているように思える。


「危ない!!」


無意識のうちに動き出す体。


「きゃっ...」


俺は唯華を抱き寄せて地面に倒れ込んだ。


唯華の持っていたチラシが宙を舞う。


───ガンッ


俺の頭に衝撃を感じたのと誰かが悲鳴をあげたのが同時だった。


真っ暗になる視界。


唯華が俺を呼ぶ声がだんだん小さくなる。


ダサいな、俺。


俺は額から何かがつたうのを感じながら意識を失った。







<唯華side>


私は保健室のベッドで眠っている痛々しい三浦くんを見つめていた。


「三浦くん...」


静かな保健室に私の声が響く。


呼んでも返事はないんだけど。


保健の先生は「おでこを切っちゃっただけだから心配しなくても大丈夫」言ってたけど...


心配しないわけないじゃん。


だって...


頭からいっぱい血出てたし...


私のせいで三浦くんが...


「早く目をさましてよ...」


優しく三浦くんの手を握る。


昨日も繋いだ...三浦くんの少し大きな手。


「.....唯華...」


ボソッと聞こえた三浦くんの声。


「三浦くん!?」


私はガバッと三浦くんの方を見た。


けど...


まだまだ眠っていて起きる様子はない。


...寝言?






「三浦くん...」


もう一度、三浦くんの名前を呼ぶ。


その声が届いたのか三浦くんはうっすら目を開けた。


「唯華...もう少し、近く来て?」


寝ぼけてるのか少し子供っぽい三浦くんがかわいくて...


私は三浦くんの近くに移動した。



すると三浦くんはフニャッと笑って...


「きゃっ!!」


繋いでいた手を引っ張った。


その反動でベットに倒れこむ私。


そのまま布団の中へ引きずり込まれる。


「ちょっと!!三浦くん!?」


私は三浦くんの腕の中にすっぽりおさまって...


密着した体から三浦くんの熱が伝わる。


「三浦くん!!」


自分の心臓がバクバクうるさい。


その音が三浦くんに聞こえちゃいそうで...


私は力強く三浦くんを押し返した。


...けど。





逆にもっと強い力で抱き締められる。


そして片方の脚を少し曲げて私の上に乗せる。


...完璧に抱き枕にされてるよね。


しかも三浦くんの顔が私の首もとにあって...


寝息が首にかかる。


三浦くん、絶対私のこと抱き枕だと思ってるよ...



.....にしても!!


心臓うるさすぎ!


これ、絶対正常じゃないよ。


ドキドキ、半端ないもん。


そんな感じで一人、悶々と自分の心臓と戦っていたとき...


ーガラッ


保健室のドアが空いた。


...この状況、ヤバくない!?


まあちゃんとベッドの周りはカーテンで囲まれてるけど...


こんなところ女の子たちに見られたら殺されちゃうよ!


なんて、そんな想像をしていた私だったけど...



「唯華と三浦、いるよね?」


聞こえて来たのはあずちゃんの声だった。






「そこじゃね?」


きっとこの声は近藤くん。


この二人なら...


変な噂、流さないでしょ。


カーテン越しに二人が近づいてくる気配がする。


あ、でも...


三浦くんに抱きしめられてる状況で...


顔、あわせずらい.....


どんな顔しとけばいいの?


私がそう考えている間にも2人の足音は近づいてきている。


どうしよう...


どうしよう!!


「開けるよー」


シャッと開けられたカーテン。


それで私はと言うと...


「翔たち...一緒に寝てる!?」


そうです。


狸寝入りです。


少し三浦くんの胸に顔を埋めて...


ちょっと...大胆すぎ?






「いい感じじゃん。この2人」


...私と三浦くんがいい感じ!?


そんなの三浦くんがかわいそうだよ。


「「美男美女って感じ」」


きれいにハモリましたね、今。


あずちゃん達仲いいな。


でも...


三浦くんは美男でいけるけど私が美女とか...


ありえないよ。



っていうかそれより...


早く出ていってください!!


こんな状況でアレだけど...


狸寝入りしてたら、さ?


本当に眠くなって来ちゃったんだよね。



このままだったら...


本当に寝ちゃう。


でもなんか三浦くんの腕の中は気持ちよくて...


一気に夢の世界へと入っていってしまった...







────...


...あれからどれくらい時間がたっただろう。


私はふと目が覚めた。


...ここどこだろ。


横から誰かに抱き締められてる。


寝返りをうとうとしても...


抱き締める力が強すぎて動けない。



だんだんときれいになっていく視界。


さっきのことも少しずつ甦ってくる。


私...三浦くんに怪我させちゃったんだ。


自分の首もとにある三浦くんの顔を見ようと努力するけど...



.....見れない。


力、強すぎじゃない?


そう思いながら私を抱きしめている三浦くんの腕を力一杯動かす。


すると案外すんなり動かせた。


私って意外と力持ち?


...なんて思ったけど


「唯華?」


ただ三浦くんが起きただけだった。