「香織っ!にげろーっ!」



驚いて見開かれた香織の視線が、一瞬僕と交差した

その瞬間…

この状況下で在り得ないものを僕は見た。


恐れも

不安も

悲しみも

全てを洗い流したような幸せな笑顔

それが死を覚悟した彼女の僕への最後の挨拶だと悟ったとき…

言いようの無い感覚が僕を突き動かした。

何も考えている余裕など無かった。

自分がどう動いたのかなんて覚えていない。

気がついたら身体は動いていた―…

頭の中は真っ白で―…

ただ、彼女を助けることしか浮かばなかった。

夢中で線路に飛び降りると

香織の腕を引き寄せ強く抱きしめた。




君を失うなんて絶対に嫌だ!



僕は君を護る―…



たとえ…



この命に代えても―…