視線を向こうのホームへと戻すと、駅員に気を取られている間に何があったのか、香織が村田と揉み合っていた。

細い手首を捕まれ引きずられるように歩き出した姿に、怒りで身体に火が点いたように熱くなった。

僕を、逃げ出したと勘違いし羽交い絞めにする駅員の腕を逆に捻りあげる。

唖然とする駅員に『あいつは誘拐犯だ!彼女を助けてくれ』と言い捨て、香織のもとへと走った。

階段を3段飛ばしで駆け上がり、反対のプラットホームまで数段の所まで駆け下りた時、香織は自分より遥かに大柄なボディガードの手から逃れようと、必死の抵抗で噛み付いていた。

痛みのあまり乱暴に振り払おうともがく村田から、香織を引き剥がそうと駆け寄った、そのとき…

香織の身体が宙を舞った。

何が起きたのか解らなかった

ようやく香織が線路へと突き飛ばされたのだと理解したと同時に、僕は恐ろしい光景を目の当たりにした。

近づいてくる貨物列車の轟音

耳を劈(つんざ)くブレーキ音

人々の悲鳴とざわめき


目の前の光景が現実だと思いたくなかった。