村田さんに促されるままに、再び待合の椅子に座ると、電車の遅れを告げるアナウンスがプラットホームに響いた。

一つ手前の駅で何かあったらしく、ダイヤが乱れているらしい。

アナウンスを聞いた村田さんが、チッと舌打ちした。

どうやら予定が狂ったことに苛立ちを感じているらしく、しきりに時計を見ている仕草に、これは良い口実になるかもしれないと、瞬時に思考をめぐらせた。

「村田さん?…あの、あたしなら一人で帰れますから、何か用事があるんでしたら、どうぞ構わずに行ってください」

「何故そんな事を?」

「だって、随分時間を気にしていらっしゃるみたいで…あたしのために予定が変わって迷惑しているんじゃありませんか?」

僅かに動揺を見せた村田さんは、突然痛いほどの力で手首を掴んだ。

予想外の行動に驚きの余り言葉を失うあたしに、彼は感情を隠した声で低く呟いた。

「確かに…少し困ったことになりました。
ダイヤが乱れたとなると、あなたを予定通りお連れすることが出来なくなります」

「あの…あたしなら一人で帰れます。
誰もあたしが車を降りて電車で帰るなんて思わないでしょうし、危険は無いと思います」

「確かに…あなたがここにいる事を知っているのは小村と私だけです。
だが、あなたをまだ帰す訳にはいきませんので…。私と一緒にタクシーで移動願います」

「…なんですって?」