別荘を出て10分もしないうちにあたしは車に酔ってしまった。

昨夜はずっと廉君と話していて、朝方少し眠っただけだった事が、ただでさえ酔いやすい体質に拍車をかけてしまったようだった。

安田さんの時は酔わないようにといつも気遣って、沢山お話しをしてくれたっけ。と、優しい笑顔を思い出した。

彼の容態はどうなんだろう。

こんな形でお礼もお別れも言えず帰ることを申し訳なく思いながら、昨日の現場付近を通り過ぎた。

山道が終わり見慣れた景色が遠ざかると、それまで張り詰めていたものが緩み始める。

本当は泣き伏してしまいたいけれど、運転手の小村さんと、助手席に座る村田さんの手前それも出来ず、あたしは眠ったふりをして目を閉じたまま、込み上げる哀しみと気分の悪さに耐え続けた。

その様子に、小村さんは180cm以上ある長身を小さく折り曲げるように頭を下げて、安田さんのように運転できなくて申し訳ないと、何度も謝ってくれた。

かえって申し訳なくて、大丈夫と精一杯の虚勢を張ってみるものの、体調は益々悪くなり、声を出す事も辛くなっていく。

ついに車を止め休憩を余儀なくされたあたしに、しょんぼりとする小村さんには申し訳なかったが、既に慰めの言葉をかける心の余裕も無く、その場の重い空気を何とかしようと電車で帰る提案を即座に受け入れたのだった。

少しでも早く一人になりたかった。

早く彼らから離れて泣きたかった。

電車に乗れば、一人になれると思ったのに…。

村田さんと二人きりになったことを、あたしは今更ながらに後悔した。