衝撃は強かったが、気持ちが高ぶっているため痛みは感じず、すぐに起き上がり彼の落とした荷物を拾うと、謝りながら手渡した。

「すみませんでした。急いでいたもので…」

「いや、こちらこそ良く見ずにドアを開けたので…あれ、お前?」

「あっ、あなたは!」

そこには…
昨日香織を助けてくれたあの男性が驚いた顔で立っていた。

「昨日はどうもありがとうございました。
せっかくお会いできてきちんと御礼をしたい所なのですが、今は…」

「…えらく焦ってるな。お前、もしかしてまた何かあったのか?」

「え?」

「まさか昨日の連中が…?」

「…いえ、昨日の連中とは違うのですが…似たようなものです。すみません、急ぐので失礼します」

僕の様子が切羽詰っていた為か、一刻の猶予も無いことを瞬時に悟ったのだろう。

柳眉を顰め不快感を露わにした彼は、駆け出そうとする僕に待ったをかけた。

行く先を駅だと知ると、ここからの最短ルートを教えてくれると言い、更に意外な申し出をしてきた。

「俺のバイクを貸してやる。お前運転できるか?」

そう言った彼の視線の先には、昨日彼が乗っていたバイクがあった。

年式はかなり古いはずなのに、細部まで磨き上げられているところを見ると、とても大切にしているのだろう。

昨日今日出逢ったばかりの僕なんかが借りても良いものなのだろうかと戸惑った。

「あれを?」

「送ってやれたらいいんだが、生憎と今はメットが一つしかないんでね」

「大切にしているんでしょう? 僕なんかに貸していいんですか?」

「彼女が危ないんだろう?
お前には縁があるらしいし貸してやるよ。
ただし絶対に傷つけるな。アレは親父の形見だからな」