香織を降ろしたのは一つ手前の駅だと言った。

この辺りの路線も駅も知らない僕は、紀之さんに簡潔に事情を話しナビで検索を掛けてもらった。

ここから駅までは距離にして約8キロ。

渋滞に嵌った紀之さんの車で移動するのは不可能だった。

何度か車窓から見たおぼろげな記憶とナビの示すルートを重ねながら地図を頭の中に叩き込み、最短ルートをシュミレーションしてみる。

「駅まで走ります。ここまで付き合ってくれてありがとうございました」

「ああ、気をつけて行け。…さっきの事だが…他言は無用だ。バレた時にはお前も命は無い…解っているな?」

「解っています」

「お前は俺の味方だと思って良いな?」

真剣な目で僕を見つめる紀之さんに、その場しのぎのいい加減な返事など通用しない。

彼の考えを全て納得できた訳じゃない。

だけど…

おじい様に対抗できる権力がどうしても欲しい

香織をこんなことに巻き込む事無く、あの笑顔を護る事のできる強さが欲しい


「……ええ。だけど雅さんの事を納得したわけじゃない。
本当に他に方法はないのか考えてみたい。
婚約の事も…もう少し時間を下さい」

紀之さんは眉を顰めて何か言おうとしたが、僕は返事を待たずに駆け出した。