互いに頭を下げたものの さてどうしたものかと思っていると 彼が遠野局長に

お会いできませんかと聞いてきた



「聞いてくるわね だけど まだ……」


「お父さんなら さっき書斎に引っ込んだよ 会わないつもりなんだろう 

せっかく送ってもらったんだ 

二宮君に上がってもらえばいいんじゃないかな」


「そうね 二宮さん どうぞ そうして」



律儀な彼は またも一礼し 靴をそろえて上がってきた



父の代わりを務めようとしたわけではないが 彼への質問は多少ぞんざいな

聞き方になっていたのかもしれない

妹をさらっていく男がコイツなのかとの意識が働いて つい厳しい聞き方に

なっていたと あとで実咲が教えてくれた

僕の失礼な態度にも 彼は不快な顔もせず真面目な受け答えをしてくれた

しばらく話をしていたが 父が出てくる様子もなく 僕らは帰ることにした

二宮君が駅まで送ってくれるというので 彼の好意を受けることにして 

父に別れを告げずに家を出た


駅までの短い間 車の中で二宮君に話しかけていたのは実咲だった

「葉月ちゃんと大学からのお付き合いだって聞いたけど サークルか何か?」

と切り出し 彼がそうですと答えると 

「私たちもそうだったのよ」 と嬉しそうな声をあげ 

「遠野のお義父さんは物静かな方だけど 話をきちんと聞いて下さる方よ」

と二宮君を励ましている

彼も実咲の言葉に応えるように 職場での父の存在を話してくれた

号令をかける立場ではあるが いかなるときも広く意見を聞き 

部下の提案を大事にしてくれる 気配りを怠らない方だと 息子の僕の耳には 

少々出来すぎた話にも聞こえるが 彼の口調に繕った様子はなく 

本当にそう思っていてくれているようだった    



「葉月さんは 局長の あっ……彼女のお父さんの許しがなくても

いいと言うんですが 僕はそれではいけないと思っています」


「そうだね それに そんなことをしたら 君も仕事がしづらくなるだろう」


「僕はいいんです 気持ちやけじめの問題ですから 

その辺はちゃんとしておきたくて 

あの……今日はありがとうございました」



駅のロータリーで僕らを降ろしながら 二宮君は僕に礼を言った

何に対して ありがとうございました だったのか定かではなかったが 

おそらく話を聞いてもらった礼なのだろう

去り際に 彼がまた頭を下げたのが印象的だった